その日、日曜の夜、尿が出なくて苦しそうなダリアを年中無休24時間営業の獣医に連れて行った。最近ではそこがダリアのかかり付け医になっていたし、治療費はかかるが準人間並の医療を施してくれる獣医科医院だったので私はそこがベストだと思っていた。早速超音波画像診断装置で検査し膀胱穿針で尿を抜いた。

医師は「びっくりするぐらい石が溜まっている」と言った。尿道にカテーテルを入れてもジャリジャリと音がして入らない位 だと。とりあえずこれから高圧の生理食塩水で石を膀胱に押し戻す処置をしてみるが、完治させるには手術しかないとも。 「先生は14歳のこの子が手術に耐えられると思いますか」と私は医師に聞いた。当然そんな事出きるわけが無い。つまりもう対処療法しかないのだ。私ももうダリアに手術は望まない。今まで何度も手術をうけてその都度苦しんできたダリアだった。

   

完治する可能性が無いのなら、とにかく一時凌ぎのでもいいからダリアの今の苦しみを取り除いてもらい、先が見えなくてもかまわないから家に連れて帰りたいと私は考えていた。 死んでしまうのならせめて家でと。 若い先のある犬ならば、病院で最良な手厚い処置を受けさせたいと思うだろうが、ダリアは違う。家族のいない病院で不安に逝くよりも、住み慣れた家で聞きなれた声を聞きながら逝かせてあげたい。

   
 

私はそう医師に伝えたつもりだった。 ただ、その獣医科医院は何人かの医師が交代で診療にあたる医院で、私がそれを伝えた医師はその晩の当直医だった。翌日の日勤の医師は別 の医師だったし、ダリアの死を連絡してきた医師も遺体を引き取りに行った時いた医師も別 の人だった。私達の希望はちゃんと申し送られていたのだろうか、、、。

   

ダリアを最初に診察した医師は、一晩は預からせてほしいと言った。 不整脈が出る等、心臓にも異常が見られるのでモニターしながら処置をしないといけないと。 私の頭は混乱した。どうしたらいいのか、何が最も正しい判断なのか。無理に連れかえって死期を早める事は避けたいし、逝く時は家で見取りたい。 しばらく考えて、一晩預けて取りあえず尿を抜き、石を膀胱に押し戻してもらおう、その後入院を長引かせる事は避け、家に連れて帰り様子を見よう。たとえ完治出来なくても、見とおしが立たなかろうと、一晩だけダリアをここに預けよう。そう決めた。

   
 

ここ数年はダリアの最後にはこうしてやりたい、ああしてやりたい、とつらつら思う日々だったのだが、現実こういう決断を迫られる時になって私は頭が真っ白になっていたようだった。つきつめてあの時の自分の気持ちを思い帰すと私はダリアが死ぬ かもと悩みながらも頭の大部分は「まだ死なない」と決め付けて、家に連れて帰るタイミングをいつにするかという事だけを悩んでいた。「ダリアがこのまま病院で死んでしまうかもしれない」とは露ほどにも頭に無かった。今思うと呆れるばかりだ。