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広大なアンコールワットを見て周り汗だくになった私達だったが、スリングさんは駐車場でにこやかに待っていてくれた。まるで避難するように車に乗り込み、走り出すとクーラーの冷たい風が熱を持った体を冷やしてくれた。ただ、幸か不幸かタ・プロームは完全に体を冷やしきってもらえるほど遠くなかった。アンコールワットから10分くらいか。「ここがタ・プロームだよ。」と車から降ろされた場所はうっそうとした森の中だった。アンコールワットはそれを取り巻く広大な堀のせいで開けた感じのする場所だったが、ここは背の高い熱帯雨林の中に、というより底に沈んでるような所だ。見上げると口が開いてしまう位
高い木々の中にある。そのせいか涼しい気がする。
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川床を歩いているような砂の参道の両脇はジャングルだ。100メートルくらい歩くと遺跡が見えてくる。敷き詰められた石の道が木の根に持ち上げられて歪んでおり、歩き難い。 タ・プロームは発見された当初の状態をあまり変えないように保存する意向の遺跡だとの事で、修復の後が見られず探検ムードはあると言える。
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有名な木の根の絡みついた壁、木の根に持ち上げられた石畳、木の根に食い込まれた柱。そう、ここは木々に巻き着かれ、食い込まれ、持ち上げられ密林により破壊されていく遺跡。時の流れを感じて恍惚となる。植物の成長のスピードを知っていれば、誰でも実感できるだろう。
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遠い昔のある日、人々に見捨てられた寺院の石壁に鳥が糞を落としていった。やがて鳥の糞に含まれた植物の種が芽を出す。根は下に芽は上に向かい伸びて行く。それは弱々しくも生き生きとした若芽だったろう。根は石壁にしっかりとしがみつき、芽は茎となり青葉を付ける。根はさらに石壁の隙間へと進入を始め、茎は枝をつけ葉を増やす。そういう植物の成長のプロセスをここで想像してみると、ここまでの見上げる程の巨木になる間の時間は果
てしない。人間の歴史の影の忘れられた場所で木々は人知れず巨大になって行ったんだ。
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綺麗なデバターが崩れた壁の一部に残っている。ここのデバターは大人びた優しい面
差し。繁栄と崩壊を見てきた目。
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ここは遺跡全体が木下にある感じでかなり涼しいのでアンコールワットよりは見て回るのが辛くなかった。時々石に腰を降ろして休憩したが、静かな森の中、鳥の声や虫の音、風が木々をゆする音しか聞こえない。ずっと座っていたくなる。
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監視員さんなのか所々に青い服の人がいる。何をするでもなく座っているだけなのだが、この女性の横には気持ち良さげに眠る犬がいた。絵になる光景なので「写
真を撮っていいか」と聞くと笑顔で「イエス」と言ってくれた。こういう人間と犬の関係はこの遺跡が出来た頃から変わらないに違いない。
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見上げれば木々の間から青い空が覗く。厳しい午後の日差しを遮ってくれる木々はこの遺跡の屋根のようだ。
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所々崩壊の著しい所がある。全く原型を留めていない建物もそのままになっている。そこがまた、物悲しくて良い。この遺跡は東洋人に人気があると聞くが、この諸行無常な感じが心に響くのかも知れない。ピカピカに修復されてしまったら、こういう無常感は感じないから。
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長さ20センチ以上のムカデがゆるゆると這っていた。そのしなやかで緩慢な動き、黒光りする体、背筋が寒くなった。やはりここはジャングルだ。こういうのが沢山住んでいる場所だという事を再認識した。
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