40分も時間があるから、この寺院の動物霊園に行って見ようということになった。ペットの納骨堂や人間と動物が一緒に入れる墓所もあるらしい。
動物霊園は本堂の裏手に広がっていた。けして広くはないが、所々に植え込みや背の高い木々があり全体的に緑に抱かれており、整然とし過ぎず質素な雰囲気だ。墓地の奥に納骨堂のような建物も見える。抜けるような青空の広がる肌寒い空気の中、私達は一つ一つの墓標を見て歩いた。犬の名や命日が刻まれた墓石、生前の犬ネコの姿がレリーフされた墓標、犬ネコへの感謝の言葉が掘り込まれた墓標。なんというかここは動物と人間の強い絆を感じる場所だ。
奥まで行くと動物の合同慰霊碑や実験動物などへの慰霊碑もあり、そこにはペットフードの袋や缶
、それにまだ鮮やかな花が山のように手向けられており、訪れる人が絶えないのだという事を教えてくれた。その日は平日だったが何組かの家族が訪れていた。休日や盆には相当な人出があると誰かのブログには書いてあったのを思い出した。けして誰もいない訳ではないが静かだった。悲しみが微笑みながら沈んで行くこの場所らしく、本当に静かだった。
しばらく歩いた後、待合室に戻りながら焼き場の煙突の方を見上げた。灰色の煙が雲一つない真っ青な空にうっすらと立ち昇って行った。一瞬だけだった。煙はすぐに見えなくなった。「さよなら。ダリア」と心が言った。